此岸からの風景
<日本灯台紀行 旅日誌>オヤジの灯台巡り一人旅 長~い呟きです
2021
06/19
Sat.
09:53:45
<灯台紀行・旅日誌>2020
Category【灯台紀行 南伊豆編】
<灯台紀行・旅日誌>2020南伊豆編#12 帰路
まいったな。雨の中を走り出した。時間は<8時 出発>とメモにある。左方向へハンドルを切る。見覚えのある、爪木埼灯台入口の信号を通過。一気に急な坂道。雨が強いので、運転に慎重になった。と、バックミラーに、灰色っぽい<軽>がぴたりとついている。別にあおっているわけではないのだろう。だが、なんだか、嫌な感じだ。車間距離を詰めすぎだろうが!
気になって、チラチラ、ミラー類を見ながら走った。下り坂のカーブになったとき、<軽>の後ろにも、びっしり車が連なっているのが見えた。自分がネックになっている。ちぇ!ちょうど通勤時間帯だ。地元の人間だろう。毎日通っている道で慣れている。多少の雨だが、いつもの調子で走っていたら、前に白い車、県外ナンバーが行く手をふさいでいる、というわけか。
朝っぱらから、疲れるな。このまま、一般道で自動車レースをしていてもしょうがない。ちょうど、坂の下に、コンビニらしきものがあった。退避した。バックミラーで、あおってきた<軽>をちらっと見た。かなりのスピードで走り去っていった。イライラしてたのね。すぐに、コンビニの駐車場で回転して、再び道に戻った。
その後は、市街地走行、道は平たんになり、車の数も減ったように感じた。が、いくらもしないうちに、上り坂になった。<天城越え>だ。雨がじゃんじゃん降っている。最悪の展開だった。と、前に、高くした荷台に、荷物を満載した二トン車が、よろよろ走っている。これは歓迎だった。あとについていけばいい。こっちは全然急いでいない。風雨の強まる中、むしろゆっくり走りたいのだ。
しばらくは、ある程度の車間をあけて、あとについて行った。だが、山道が、次第に険しくなる。かなり急坂になってきた。カーブを曲がるたびに、二トン車のスピードが落ちる。いきおい、自分の車が、二トン車に接近してしまう。この繰り返した。ミラーで後ろを見ると、車列ができている。しょうがないだろう、前に危なっかしいトラックが走っているんだ。
俺はあおったつもりはない。だが、先ほど、灰色っぽい<軽>にあおられたと思ったように、二トン車の運転手も、白い車にあおられたと思ったに違いない。というのも、急坂の途中、ちょっとした路肩に、トラックが退避したからだ。あきらかに、道を譲っている。いや~、こちらとしては、譲ってほしくはなかったのだ。
ほぼ、暴風雨の山道。いまだに難所の<天城越え>、その登り坂で、車列の先頭に立ってしまった。悪夢が再び訪れた。今度は、同じ<軽>でも、白っぽいバンだ。おそらく仕事車だろう。バックミラーで急接近を確認。だが、どうしようもない。これ以上は早く走れないのだ。とはいえ、年甲斐もなく、上等だ!と、少し熱くなって、軽バンを引き離しにかかった。車の性能は、明らかにこっちの方が上だ。
カーブを曲がり切ったところで、アクセルを踏みこんで、軽バンを引き離す。だが、運転技術、土地勘、度胸で負けていた。軽バンも加速して、すぐに接近してくる。その都度、バックミラーで確認する。と、ほとんど追突されるのではないかと思えるほど、ぴったり後ろについている。これの繰り返しだ。狭い急な上り坂、退避場所を目で探したが、見つからない。
暴風雨の天城山中で、自動車レースに巻き込まれるとは、予想だにしなかった。が、その時、ふと思った。軽バンは、あおっているんじゃない。前の車についていこうとしているだけかもしれないじゃないか。だとすれば、こちらがスピードを上げれば上げるほど、たぶん、奴もスピード上げてくるわけだ。まさに、いたちごっこ!なのだ。
緊張して、いい加減、疲れた頃、幸運なことに、頂上が見えた。そこは大きな駐車場になっていて、土産物店やレストランなどがある。退避!ハンドルを切った。ミラーで確認すると、軽バンは無論のこと、あとに続く車列が、猛スピードで通り過ぎていった。ふ~~~、トイレ休憩しよう。ところが、比喩でなく、バケツをひっくり返したような土砂降りだ。ちょっとドアを開けたが、外に出るのは無理だと思った。
おしっこ缶を取り出して、車内で用と足したのだろうか。はっきりしない。だが、一息入れて、またすぐ山道に戻った。ここからは下り坂で、多少、道が広くなっている。カーブもそれほどきつくない。ある程度のスピードが出ていたので、後続車を気にせず、マイペースで走った。暴風雨の<天城越え>!あおり、あおられの<いたちごっこ>が脳裏から消えて、今度は、<伊豆縦貫道>へ間違いなく入ることに注意が向かった。だが、情けないことに、最初の入り口をやり過ごしてしまった。次は絶対見落とすまいと、自分にプレッシャーをかけ、注意深く、辺りを見回しながら走った。その甲斐あって?無事、<伊豆縦貫道>へ入った。
ナビは古いので、といっても五年前のものだが、<圏央道>同様、<伊豆縦貫道>の案内に関しても信用していなかった。何しろ、来た時には、別のルートを、それも遠回りのルートを教えられたのだから。
<伊豆縦貫道>に入ってから後のことは、あまりよく思い出せない。たしか二か所で料金を払ったような気がする。有料道路の区間が、まだ統一されていないのだろう。それと、雨は小降りになっていたようだ。要するに、天城山中だけが、極端に降っていたのだ。よくあることだ。
<12:30 自宅着 片付け>とメモにある。そうだ、帰宅した時には、ほとんど降っていなかった。いや、ぽつぽつだな。それで一気に、荷物をアトリエの中へ入れたんだ。旅疲れ、運転疲れということもなかったと思う。二階の部屋に入る時には、<ただいま>と声に出した。一応、ニャンコに言ったつもりだったが、ニャンコの顔は思い浮かばなかった。誰もいないのが、当たり前になった。気持ちは平静だった。
<南伊豆旅>2020-10-6(火)7(水)8(木) 収支。
宿泊費二泊 ¥8198(Goto割) 高速 ¥8770
ガソリン 総距離500K÷20K=25L×¥125=¥3130
飲食 ¥3000 その他 ¥3300
合計¥26400
今回も妥当な金額だ。いや、これだけ楽しんで、三万円でおつりがくる。金額的にも、内容的にも、不満はない。土砂降りの<天城越え>ですら、今となっては、良い思い出だ。
<灯台紀行・旅日誌>2020南伊豆編#1~#12
2020-10-26 終了。
まいったな。雨の中を走り出した。時間は<8時 出発>とメモにある。左方向へハンドルを切る。見覚えのある、爪木埼灯台入口の信号を通過。一気に急な坂道。雨が強いので、運転に慎重になった。と、バックミラーに、灰色っぽい<軽>がぴたりとついている。別にあおっているわけではないのだろう。だが、なんだか、嫌な感じだ。車間距離を詰めすぎだろうが!
気になって、チラチラ、ミラー類を見ながら走った。下り坂のカーブになったとき、<軽>の後ろにも、びっしり車が連なっているのが見えた。自分がネックになっている。ちぇ!ちょうど通勤時間帯だ。地元の人間だろう。毎日通っている道で慣れている。多少の雨だが、いつもの調子で走っていたら、前に白い車、県外ナンバーが行く手をふさいでいる、というわけか。
朝っぱらから、疲れるな。このまま、一般道で自動車レースをしていてもしょうがない。ちょうど、坂の下に、コンビニらしきものがあった。退避した。バックミラーで、あおってきた<軽>をちらっと見た。かなりのスピードで走り去っていった。イライラしてたのね。すぐに、コンビニの駐車場で回転して、再び道に戻った。
その後は、市街地走行、道は平たんになり、車の数も減ったように感じた。が、いくらもしないうちに、上り坂になった。<天城越え>だ。雨がじゃんじゃん降っている。最悪の展開だった。と、前に、高くした荷台に、荷物を満載した二トン車が、よろよろ走っている。これは歓迎だった。あとについていけばいい。こっちは全然急いでいない。風雨の強まる中、むしろゆっくり走りたいのだ。
しばらくは、ある程度の車間をあけて、あとについて行った。だが、山道が、次第に険しくなる。かなり急坂になってきた。カーブを曲がるたびに、二トン車のスピードが落ちる。いきおい、自分の車が、二トン車に接近してしまう。この繰り返した。ミラーで後ろを見ると、車列ができている。しょうがないだろう、前に危なっかしいトラックが走っているんだ。
俺はあおったつもりはない。だが、先ほど、灰色っぽい<軽>にあおられたと思ったように、二トン車の運転手も、白い車にあおられたと思ったに違いない。というのも、急坂の途中、ちょっとした路肩に、トラックが退避したからだ。あきらかに、道を譲っている。いや~、こちらとしては、譲ってほしくはなかったのだ。
ほぼ、暴風雨の山道。いまだに難所の<天城越え>、その登り坂で、車列の先頭に立ってしまった。悪夢が再び訪れた。今度は、同じ<軽>でも、白っぽいバンだ。おそらく仕事車だろう。バックミラーで急接近を確認。だが、どうしようもない。これ以上は早く走れないのだ。とはいえ、年甲斐もなく、上等だ!と、少し熱くなって、軽バンを引き離しにかかった。車の性能は、明らかにこっちの方が上だ。
カーブを曲がり切ったところで、アクセルを踏みこんで、軽バンを引き離す。だが、運転技術、土地勘、度胸で負けていた。軽バンも加速して、すぐに接近してくる。その都度、バックミラーで確認する。と、ほとんど追突されるのではないかと思えるほど、ぴったり後ろについている。これの繰り返しだ。狭い急な上り坂、退避場所を目で探したが、見つからない。
暴風雨の天城山中で、自動車レースに巻き込まれるとは、予想だにしなかった。が、その時、ふと思った。軽バンは、あおっているんじゃない。前の車についていこうとしているだけかもしれないじゃないか。だとすれば、こちらがスピードを上げれば上げるほど、たぶん、奴もスピード上げてくるわけだ。まさに、いたちごっこ!なのだ。
緊張して、いい加減、疲れた頃、幸運なことに、頂上が見えた。そこは大きな駐車場になっていて、土産物店やレストランなどがある。退避!ハンドルを切った。ミラーで確認すると、軽バンは無論のこと、あとに続く車列が、猛スピードで通り過ぎていった。ふ~~~、トイレ休憩しよう。ところが、比喩でなく、バケツをひっくり返したような土砂降りだ。ちょっとドアを開けたが、外に出るのは無理だと思った。
おしっこ缶を取り出して、車内で用と足したのだろうか。はっきりしない。だが、一息入れて、またすぐ山道に戻った。ここからは下り坂で、多少、道が広くなっている。カーブもそれほどきつくない。ある程度のスピードが出ていたので、後続車を気にせず、マイペースで走った。暴風雨の<天城越え>!あおり、あおられの<いたちごっこ>が脳裏から消えて、今度は、<伊豆縦貫道>へ間違いなく入ることに注意が向かった。だが、情けないことに、最初の入り口をやり過ごしてしまった。次は絶対見落とすまいと、自分にプレッシャーをかけ、注意深く、辺りを見回しながら走った。その甲斐あって?無事、<伊豆縦貫道>へ入った。
ナビは古いので、といっても五年前のものだが、<圏央道>同様、<伊豆縦貫道>の案内に関しても信用していなかった。何しろ、来た時には、別のルートを、それも遠回りのルートを教えられたのだから。
<伊豆縦貫道>に入ってから後のことは、あまりよく思い出せない。たしか二か所で料金を払ったような気がする。有料道路の区間が、まだ統一されていないのだろう。それと、雨は小降りになっていたようだ。要するに、天城山中だけが、極端に降っていたのだ。よくあることだ。
<12:30 自宅着 片付け>とメモにある。そうだ、帰宅した時には、ほとんど降っていなかった。いや、ぽつぽつだな。それで一気に、荷物をアトリエの中へ入れたんだ。旅疲れ、運転疲れということもなかったと思う。二階の部屋に入る時には、<ただいま>と声に出した。一応、ニャンコに言ったつもりだったが、ニャンコの顔は思い浮かばなかった。誰もいないのが、当たり前になった。気持ちは平静だった。
<南伊豆旅>2020-10-6(火)7(水)8(木) 収支。
宿泊費二泊 ¥8198(Goto割) 高速 ¥8770
ガソリン 総距離500K÷20K=25L×¥125=¥3130
飲食 ¥3000 その他 ¥3300
合計¥26400
今回も妥当な金額だ。いや、これだけ楽しんで、三万円でおつりがくる。金額的にも、内容的にも、不満はない。土砂降りの<天城越え>ですら、今となっては、良い思い出だ。
<灯台紀行・旅日誌>2020南伊豆編#1~#12
2020-10-26 終了。
[edit]
2021
06/08
Tue.
22:20:49
<灯台紀行・旅日誌>2020
Category【灯台紀行 南伊豆編】
<灯台紀行・旅日誌>2020南伊豆編#11 ホテル宿泊
温泉から戻ってきた。さあ、ビールだ。と、その前に、窓の外の下田湾を眺めた。ざあ~ざあ~雨が降っていて、ぼやけている。風も強くて、道路沿いの背の高い椰子の木がぐらぐら揺れている。早めに引き上げてよかったよ。ビールは冷えていた。初日に、備え付けの小型冷蔵庫を確認したら、当たり前のことだが、ちゃんと冷蔵できそうだ。とはいえ、真夏と違い、冷えたビールは、それほどありがたくなかった。この時は、むしろ、冷たすぎるなと感じたほどだ。
たしか、午後の三時過ぎだ。メモによると<14:30宿~温泉15:00>とある。夕食にはまだ早い。と思ったが、目の前のすき家のレジ袋から<オム牛カレー>を取り出した。ビールのつまみに、ちょっと食べたいような気がしたのだ。と、その時、袋の下に何かある。金庫のカギだった。隠したところを絶対に忘れない場所だ。いや、たとえ忘れたとしても絶対大丈夫な場所だろう、と思いついたのが<オム牛カレー>の下だったのだ。ただし、自分で隠した場所をすっかり忘れてしまい、鍵を見た時に<こんなところに!>とちょっと驚いたわけで、これはもう、トンマの極みだ。歳は取りたくないものだ。
<牛>も<カレー>も、まずくはない。だが、いつもの味だ。ただ、<オム(レツ)>だけが手作りの味がした。<つまみ>のつもりが、腹が空いていたのだろうか、半分くらい食べてしまった。そのまま、全部食べることも、もちろんできた。が、そこは少し自制した。夕食に取っておこう。しっかりふたを閉めた。いや、なかなかしっかりとは閉まらないので、少し手間取った。やや食い足りない感じがして、座卓の上に並べてある、お菓子類をなにか食べたような気もする。食べ終えると、少し眠くなってきた。取り立てて、やることもない。部屋の明かりとテレビを消して、布団に横になり、そのまま寝てしまったようだ。
<17:00>に起きた。部屋の中はもちろんのこと、窓の外もかなり暗くなっていた。近寄って、重いサッシ窓を開けた。雨が少しふきこんできたのかもしれない。あるいは、風が強かったのか、すぐに窓を閉めた。うす暗くなった海の中に、緑の点滅が鮮やかだった。それに比べ、少し沖の赤の点滅は、昨晩より弱々しい感じがした。周辺にあるオレンジの点滅にいたっては、ほとんど色が見えないほどだった。
ま、問題は<神子元島灯台>の明かりだ。そのピカリの明かりを撮ろうと、今日は三脚を部屋まで持ってきているのだ。ところが、強い雨のせいなのだろうか<ピカリ>が、なんだか心もとない。光がこちらに届かないのだ。十数秒待って、今一度、じっと光の方向を見た。オレンジ色っぽく、にじんでいる。雨に打たれた裸電球のようだった。
だから!と、後悔した。昨晩、面倒でも、車に三脚を取りに行けばよかったんだ。いや~、もう一人の天邪鬼が言った。あんな弱い光じゃ、撮れっこないよ。ま、そうだ。前回の南房総旅で経験している。広大な夜の海、その中で点滅する、豆粒大の灯台の光。たとえ写ったとしても、写真にはならないのだ。そう納得して、三脚は広げなかった。
座卓の前に座って、残り半分の<オム牛カレー>を食べた。食い足りない感がして、コンビニで買った赤飯握りを一個食べたかも知れない。そのあと、ノートに、ざっとメモ書きした。文字を書くことがほとんどないわけで、まさに、ミミズが、のたくったような字だ。ま、自分が読めればいいのだ。
それにしても、字はへたくそだ。子供の頃に、字の書き方をちゃんと覚えなかったからだろう。そのことが、後々、人生に過大な影響を与えるとは、思ってもみなかった。つまり、字が下手な故に、はがきや手紙などが億劫になり、人との交通をないがしろにしてしまったのだ。いや、そうとばかりともいえない。たとえ、字が人並みに書けたとしても、はがきや手紙を、好んで人に出すことはしなかったろう。何しろ、<文章>はもっと苦手だったのだ。
ワープロ、パソコンのおかげで、下手な<字>で、恥をかくことはなくなった。だが<文章>は依然として、うまく書けない。いや、ついついウソを書いてしまう。そのことが、一番やりきれない。
立ち上がって、窓際へ行った。窓ガラスに雨がふきつけている。海は真っ暗だった。かろうじて、手前の緑の点滅だけが見える。赤やオレンジの点滅は、ほとんど見えない。十数秒おきの<神子元島灯台>からの<ピカリの明かり>も、海上の強い風雨にさえぎられ、ほとんど見えなくなっていた。これといった、感慨もない。気持ちも動かなかった。厚手のカーテンを閉めた。おそらく、その後、テレビでもちょっと見たのだろう。そして、部屋の電気を消し、テレビも消して、寝てしまった。雨風の音は、ほとんど気にならなかった。
夜間トイレで、一、二時間おきに起きたはずだ。そう、たしか、一回だけ、窓際へ行き、カーテンをちょっとめくって、海を見たような覚えがある。依然として、雨風が強い。台風が、西日本に近づいている。その影響だろう。かろうじて元気だった緑の点滅も、心もとない。明日の帰路<天城越え>がちょっと気になった。
三日目
<7:00起床>。まずテレビをつけ、洗面、朝食、排便。排便は、ほとんど出なかったような気がする。着替え、ざっと部屋の整頓。布団は敷きっぱなしのまま、掛け布団を半分めくっておいた。その上に、枕と、ざっとたたんだ浴衣をおいた。
そうそう、昨晩のことで書き忘れたことがあった。コップの水を、座卓の上の長細い敷物にこぼしてしまった。ティッシュですぐに拭いたが、なにか、茶色くなっている。座卓本体の塗装の色ではない。敷物から浸み出したものだ。今朝見ると、そのあたりが、少し茶色くなっている。まずかったな。といっても申告するほどのことじゃないだろう。すぐに頭から流した。
身支度など、すべてを終えて、カメラバックまで背負った。と、そうだ、宿泊した室内の写真を撮るのを忘れていた。バックをおろし、中からカメラを取り出した。丹念に、室内を撮った。これらの記念写真は、後々、いや、帰宅後に見た時ですら、なにがしかの感情を呼び覚ます。何と言うか、もう二度と訪れることもない、生涯に一度の空間と時間。人間的郷愁、とでも言っておこう。
廊下に出た。鍵はかけなかった。エレベーターに乗って、一階に下りた。と、大きな掃除機で、おばさんがロビーを掃除している。そのホースをまたいで、受付へ向かった。おばさんが、元気のよい声で<大丈夫ですか、すいません>と声に出した。<大丈夫、大丈夫>とおばさんの方へ顔を向けながら答えた。やけに愛想がいいなと思った。むろん、嫌な感じはしない。むしろ好ましく感じた。
受付カウンターには、爺がいたような気がする。精算を、と言って、ポーチから財布を取り出した。爺は、なにらや、下でごそごそしながら、書類を探し出し、計算した。たしか<Goto割りで>と言ったような気もする。一万円札を出して、お釣りをもらった。そのあと、前に書いたように、<カツオのつまみ>を<漁師のふりかけ>にかえてもらった。<値段は同じですよね>と、爺は自分に言い聞かせるように言った。嫌な顔一つしなかった。
精算を終えて<お世話さま>と声に出して、出入り口へ向かった。どこからともなく<小料理屋の大将>も現れて、<ありがとうございました>と会釈された。外に出た、雨がざあ~ざあ~降っている。急ぎ足で車へ向かった。トートバックとカメラバックをさっと車に積み込み、運転席に滑り込んだ。一応、ナビを自宅にセットした。
温泉から戻ってきた。さあ、ビールだ。と、その前に、窓の外の下田湾を眺めた。ざあ~ざあ~雨が降っていて、ぼやけている。風も強くて、道路沿いの背の高い椰子の木がぐらぐら揺れている。早めに引き上げてよかったよ。ビールは冷えていた。初日に、備え付けの小型冷蔵庫を確認したら、当たり前のことだが、ちゃんと冷蔵できそうだ。とはいえ、真夏と違い、冷えたビールは、それほどありがたくなかった。この時は、むしろ、冷たすぎるなと感じたほどだ。
たしか、午後の三時過ぎだ。メモによると<14:30宿~温泉15:00>とある。夕食にはまだ早い。と思ったが、目の前のすき家のレジ袋から<オム牛カレー>を取り出した。ビールのつまみに、ちょっと食べたいような気がしたのだ。と、その時、袋の下に何かある。金庫のカギだった。隠したところを絶対に忘れない場所だ。いや、たとえ忘れたとしても絶対大丈夫な場所だろう、と思いついたのが<オム牛カレー>の下だったのだ。ただし、自分で隠した場所をすっかり忘れてしまい、鍵を見た時に<こんなところに!>とちょっと驚いたわけで、これはもう、トンマの極みだ。歳は取りたくないものだ。
<牛>も<カレー>も、まずくはない。だが、いつもの味だ。ただ、<オム(レツ)>だけが手作りの味がした。<つまみ>のつもりが、腹が空いていたのだろうか、半分くらい食べてしまった。そのまま、全部食べることも、もちろんできた。が、そこは少し自制した。夕食に取っておこう。しっかりふたを閉めた。いや、なかなかしっかりとは閉まらないので、少し手間取った。やや食い足りない感じがして、座卓の上に並べてある、お菓子類をなにか食べたような気もする。食べ終えると、少し眠くなってきた。取り立てて、やることもない。部屋の明かりとテレビを消して、布団に横になり、そのまま寝てしまったようだ。
<17:00>に起きた。部屋の中はもちろんのこと、窓の外もかなり暗くなっていた。近寄って、重いサッシ窓を開けた。雨が少しふきこんできたのかもしれない。あるいは、風が強かったのか、すぐに窓を閉めた。うす暗くなった海の中に、緑の点滅が鮮やかだった。それに比べ、少し沖の赤の点滅は、昨晩より弱々しい感じがした。周辺にあるオレンジの点滅にいたっては、ほとんど色が見えないほどだった。
ま、問題は<神子元島灯台>の明かりだ。そのピカリの明かりを撮ろうと、今日は三脚を部屋まで持ってきているのだ。ところが、強い雨のせいなのだろうか<ピカリ>が、なんだか心もとない。光がこちらに届かないのだ。十数秒待って、今一度、じっと光の方向を見た。オレンジ色っぽく、にじんでいる。雨に打たれた裸電球のようだった。
だから!と、後悔した。昨晩、面倒でも、車に三脚を取りに行けばよかったんだ。いや~、もう一人の天邪鬼が言った。あんな弱い光じゃ、撮れっこないよ。ま、そうだ。前回の南房総旅で経験している。広大な夜の海、その中で点滅する、豆粒大の灯台の光。たとえ写ったとしても、写真にはならないのだ。そう納得して、三脚は広げなかった。
座卓の前に座って、残り半分の<オム牛カレー>を食べた。食い足りない感がして、コンビニで買った赤飯握りを一個食べたかも知れない。そのあと、ノートに、ざっとメモ書きした。文字を書くことがほとんどないわけで、まさに、ミミズが、のたくったような字だ。ま、自分が読めればいいのだ。
それにしても、字はへたくそだ。子供の頃に、字の書き方をちゃんと覚えなかったからだろう。そのことが、後々、人生に過大な影響を与えるとは、思ってもみなかった。つまり、字が下手な故に、はがきや手紙などが億劫になり、人との交通をないがしろにしてしまったのだ。いや、そうとばかりともいえない。たとえ、字が人並みに書けたとしても、はがきや手紙を、好んで人に出すことはしなかったろう。何しろ、<文章>はもっと苦手だったのだ。
ワープロ、パソコンのおかげで、下手な<字>で、恥をかくことはなくなった。だが<文章>は依然として、うまく書けない。いや、ついついウソを書いてしまう。そのことが、一番やりきれない。
立ち上がって、窓際へ行った。窓ガラスに雨がふきつけている。海は真っ暗だった。かろうじて、手前の緑の点滅だけが見える。赤やオレンジの点滅は、ほとんど見えない。十数秒おきの<神子元島灯台>からの<ピカリの明かり>も、海上の強い風雨にさえぎられ、ほとんど見えなくなっていた。これといった、感慨もない。気持ちも動かなかった。厚手のカーテンを閉めた。おそらく、その後、テレビでもちょっと見たのだろう。そして、部屋の電気を消し、テレビも消して、寝てしまった。雨風の音は、ほとんど気にならなかった。
夜間トイレで、一、二時間おきに起きたはずだ。そう、たしか、一回だけ、窓際へ行き、カーテンをちょっとめくって、海を見たような覚えがある。依然として、雨風が強い。台風が、西日本に近づいている。その影響だろう。かろうじて元気だった緑の点滅も、心もとない。明日の帰路<天城越え>がちょっと気になった。
三日目
<7:00起床>。まずテレビをつけ、洗面、朝食、排便。排便は、ほとんど出なかったような気がする。着替え、ざっと部屋の整頓。布団は敷きっぱなしのまま、掛け布団を半分めくっておいた。その上に、枕と、ざっとたたんだ浴衣をおいた。
そうそう、昨晩のことで書き忘れたことがあった。コップの水を、座卓の上の長細い敷物にこぼしてしまった。ティッシュですぐに拭いたが、なにか、茶色くなっている。座卓本体の塗装の色ではない。敷物から浸み出したものだ。今朝見ると、そのあたりが、少し茶色くなっている。まずかったな。といっても申告するほどのことじゃないだろう。すぐに頭から流した。
身支度など、すべてを終えて、カメラバックまで背負った。と、そうだ、宿泊した室内の写真を撮るのを忘れていた。バックをおろし、中からカメラを取り出した。丹念に、室内を撮った。これらの記念写真は、後々、いや、帰宅後に見た時ですら、なにがしかの感情を呼び覚ます。何と言うか、もう二度と訪れることもない、生涯に一度の空間と時間。人間的郷愁、とでも言っておこう。
廊下に出た。鍵はかけなかった。エレベーターに乗って、一階に下りた。と、大きな掃除機で、おばさんがロビーを掃除している。そのホースをまたいで、受付へ向かった。おばさんが、元気のよい声で<大丈夫ですか、すいません>と声に出した。<大丈夫、大丈夫>とおばさんの方へ顔を向けながら答えた。やけに愛想がいいなと思った。むろん、嫌な感じはしない。むしろ好ましく感じた。
受付カウンターには、爺がいたような気がする。精算を、と言って、ポーチから財布を取り出した。爺は、なにらや、下でごそごそしながら、書類を探し出し、計算した。たしか<Goto割りで>と言ったような気もする。一万円札を出して、お釣りをもらった。そのあと、前に書いたように、<カツオのつまみ>を<漁師のふりかけ>にかえてもらった。<値段は同じですよね>と、爺は自分に言い聞かせるように言った。嫌な顔一つしなかった。
精算を終えて<お世話さま>と声に出して、出入り口へ向かった。どこからともなく<小料理屋の大将>も現れて、<ありがとうございました>と会釈された。外に出た、雨がざあ~ざあ~降っている。急ぎ足で車へ向かった。トートバックとカメラバックをさっと車に積み込み、運転席に滑り込んだ。一応、ナビを自宅にセットした。
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