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此岸からの風景

<日本灯台紀行 旅日誌>オヤジの灯台巡り一人旅 長~い呟きです

2023

03/20

Mon.

09:43:38

<灯台紀行 旅日誌>2020年度版 

Category【灯台紀行 愛知編

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<灯台紀行・旅日誌>2020年度 愛知編#15
伊良湖岬灯台撮影5

<12時30~2時 イラコ 撮影>。メモの走り書きは、自分にすら読めないようなヘタクソな字だ。なぜ、字がこれほどヘタクソなまま、一生を終えることになったのか?やはり、小学生の頃、ちゃんと字を書くことを覚えなかったからだろう。勉強などは大嫌いだったのだ。もっとも、その後も、きれいな字を書くための努力は、一切してこなかった。野球やバスケのためには努力したが、きれいな字を書く努力は、不遜にも、努力するに値しないと思っていたのかもしれない。

人生の半ば過ぎにワープロができ、その後、パソコンを使うようになった。字が下手だ、というコンプレックスからはほぼ解放された。自分の書いた字を、人に見られること、見せることがなくなったからだ。だが、それが、いいか悪いかは、微妙な問題だ。字をきれいに書く必要がなくなったからには、おそらく、今後、字がうまくなる可能性はほとんどない。ひるがえって、かりに、ワープロもパソコンもなかったなら、人生の最後、やることもなくなった頃に、ひょっとしたら<ユーキャン>か何かで、硬筆講座を受けてみよう、などと思ったかもしれないのだ。

益体もないことだ。話しを戻そう。二時まで曇りマークがついていた、というのは、思い違いかもしれない。曇り空なら、12時30分から、撮影を開始するはずがない。いや、ちょっと待ってくれ。この日の午後の、一発目の撮影画像は、恋路ヶ浜駐車場にあった石のモニュメントで、時刻は<12:55>になっている。しかも、その後の画像を見ると、雲は多いものの、多少陽射しが差している。ということは、まずもって、二時まで曇りマークがついていた、というのは、思い違いだった可能性がある。それとも、天気予報がころころ変わって、頭が対応できなかったのか?あり得ない話ではない。もっとも<12:30>に撮影を開始した、ということに関しては、これは、メモしたときの完全な思い違いだ。

撮影画像がなければ、こうした思い違いが、思い違いとみなされず、看過されていっただろう。ならば、いっそのこと、撮影画像の時間など無視して、書き進めようか。その方が、気楽だ。だが、そうなると、この旅日誌は、ますます、日誌らしからぬ、フィクションの領域に近づいてしまう。ひとつの思い違いに、さらなる思い違いを重ねていけば、内容的には、これはもう、正確な意味での旅日誌ではなく、旅日誌風のフィクションになってしまう。

自分としては、できるかぎり<思い違い>のないように書いていきたい。でなければ、あとで読んだときに、<思い違い>が<思い違い>ではなくなり、実際にあったことのように印象されてしまう。結果、さらなる<思い違い>を重ねてしまうことになるわけで、そういうデタラメなことだけは、避けたいのだ。

雲は多いが、多少の陽射しがあった。と書き出せばよかった。ま、いい。曇天でなくて、よかったよ。そう思いながら、石畳の道を歩いたような気がする。太陽の位置は、すでに、目線、45度くらいのところにあった。この時間、夏場なら、真上にある筈だ。景観的には、いい感じで、海が、黄金色に輝いている。さほど風もなく、心地よい。

伊良湖岬灯台が見えてきた。東側から始めて、下調べした撮影ポイントを回り始めた。石壁の上、波消し石の上、正面付近の土留め壁の前、階段、さらには、西側からも撮った。だが、どのポイントも、空の様子がよろしくない。日差しも弱く、写真に元気がない。こういう時は、ムキになって撮ってもだめだ。一応、昨日は撮れたと思っている。がっかりはがっかりだが、致命的ではない。あっさり引き上げた。

<2時30~3時30 車で休ケイ>。これは、撮影画像のファイル情報で裏が取れている。ほぼ、間違いない。さて、それにしても、小一時間、車の中で何をしていたのだろう。後ろの仮眠スペースで、横になっていたのか?それとも、運転席で靴をぬぎ、体を横にして、ドアに背中をつけ、助手席の窓やダッシュボードに足を投げ出していたのだろうか?よくは思い出せない。ただ、駐車場の奥の方にある、<幸せの鐘>を見に行こうかな、とちょっと考えた。鐘の音が聞こえたのかもしれない。たが、行かなかった。車の中でぼうっとしているほうが、心地よかった。

時計を見た。三時十五分くらいだったかな?外に出た。車のリアドア―を開け放して、装備を整えた。ポシェットに、ダウンパーカの小袋を結びつけ、カメラ一台、肩掛けにして、手に三脚を持った。ネックウォーマーも指先の出る手袋もしていた。陽は、大きく傾き、ややオレンジ色っぽくなった海がきらきら光っている。風がないので、寒くはなかった。ただ、水平線近くにたなびく雲が気になった。きれいな日没、昨日のような、線香花火の火玉は出現しないかもしれない。

これでもう何回、灯台の周辺を巡ったのだろう。今回も、撮影ポイントを律儀に回った。夕陽は、思った通り、分厚い雲にさえぎられ、ほとんど見えない。だが、もうダメかなと思った刹那、水平線のほんの少しうえあたり、雲と雲の間だ。不定形の太陽が、オレンジ色に輝き始めた。おっと!気合が入った。カメラのファインダーに目を押し付けた。そして、ほんの一瞬だった。不定形の太陽が、ほぼ水平線上で、黄色に閃光した。海も空も灯台も、おもいっきり、オレンジ色に染め上げられた。

その後は、時間が目に見えるようだった。少しずつ、少しずつ、かすかに、かすかに、光と色が消えていった。静寂。しかし、その静寂を破るように、西側の水平線上に、なぜか、濃いみかん色の帯が現れた。夕陽が落ちた後の、まさに<ブルーアワー>だった。念のため、東側の空の様子も見に行った。深い、濃い青だった。だが、好みとしては、西側の空だ。何枚か慎重に撮って、西側に戻った。ほんの数分にもかかわらず、空の様子が、かなり変化していた。暗くなり、みかん色の帯は、諧調しながら群青色になっていく。空の上の方へ吸い込まれていくようだった。

三脚を立てた。シャッタースピードを見て判断したのではない。あたりの暗さから、手持ちで撮るのはもう無理だ。自然に体が動いた。ファインダーを見て、構図を決めた。高い群青色の空に、オレンジの光をまとった、横一文字の雲が流れてきた。時間の経過とともに、その雲は、しだいに竜のような形になって、空に覆いかぶさった。しかし、それも一瞬だった。オレンジ色の竜がしだいに霧散していき、そのあとには、さらに暗くて深い群青色の空が広がっていた。

ほぼ、完全に陽は落ちて、<ブルーアワー>も終わった。暗い海に、船の明かりが小さく見える。みかん色の帯も、色が暗くなり、細くなった。灯台の目が、なおいっそう明るく光り出し、対岸の小島からも光が届く。神島灯台から光だ。そろそろ、引き上げ時だな。最後に、もう一度、ファイダ―をじっくり見た。画面左上に、二つ、三つ、小さく何か光っている。星、か?カメラから目を放して、夜空を見上げた。三つ、四つ、西の空に、星が光っていた。

真っ暗な石畳の道を、ヘッドランプで照らしながら、駐車場へ戻った。充実した心持だった。それに、全然寒くない。むしろ快適だった。途中、またしても、波の音が聞こえた。立ち止まって、耳をすませた。すぐ近くでザブ~ン、すると、こだますようにサブ~ン、サブ~ン、ザブ~ンと聞こえる。だが、その間にも、どこかザブ~ン、サブ~ン。さらにその間にも、今度は遠くの方でザブ~ン、ザブ~ン、ザブ~ン。これが、まさに<潮騒>だったのだ。恥ずかしながら、<潮騒>というものが、どういうものなのか、いまのいまに至るまで、存じ上げませんでした。

波の音を聞きわけられたので、さらに気分がよくなった。ふと、夜空を見上げた。いや、<ふと>じゃない。ネットで見た、伊良湖岬灯台の写真を思い出したのだ。背景に、天の川と無数の星が写っていた。伊良湖岬は、星空がきれいで有名なんだ。ほんとにそうなのか?夜空を見上げた。目を凝らした。いやというほど、たくさんの星が見えた。立ち止まって、しばらく眺めていた。真ん中へんで、光ってるのが北極星かな?また波の音が聞こえてきた。闇の中で、サブ~ン、サブ~ンと、こだましていた。

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2023

03/13

Mon.

17:21:51

<灯台紀行 旅日誌>2020年度版 

Category【灯台紀行 愛知編

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<灯台紀行・旅日誌>2020年度 愛知編#14
伊良湖岬港・防波堤灯台撮影

ホテルの駐車場を出た。<田原街道>をほんの少し北上して、すぐ左折した。ファミマ往復の際、車からちらっと灯台が見えたのだ。閑散とした港の中に入って行った。正面は海で、行き止まり。右に曲がって、魚市場の前をそろそろ走っていくと、駐車場があった。公共の施設であることを確かめて車を乗り入れた。どんぴしゃり、すぐ目の前に、白い防波堤灯台が見える。

車から出た。右手はきれいな砂浜で(ココナッツビーチ伊良湖、というらしい。)そばに大きなホテルが立っている。正面には防波堤があり、その先端に灯台が立っている。迷わず、防波堤の上に登り、歩き撮りしながら近づいていった。だが、近づくにつれ、根本に居る釣り人が邪魔に思えてきた。釣り人は、灯台の台座に座ったり、立ち上がったりしながら釣りをしている。明らかにその場所が気に入っているらしく、釣り道具や荷物を回りにとっちらかしている。占拠しているわけだ。写真としては、灯台と釣り人が重なってしまい、絵面が汚い。まあ~、これは宿命なのだろうか。防波堤灯台の周り、とくに根元には、平日だろうが休日だろが、必ず釣り人がいるんだ。

結局、根元まで行かないで、途中で引き返した。というのも、根本まで行って、釣り人と目を合わすのも嫌だったし、ロケーション的にも、灯台のフォルム的にも、是が非でも撮りたい、というほどでもなかったからだ。それに何よりも、曇り空だ。写真が撮るような天気じゃない。移動。いま来た道を戻った。ただし<田原街道>へは戻らないで、そのまま、まっすぐ、フェリー乗り場の方へ向かった。と右手、岸壁側に、広い駐車場がある。雰囲気的に、駐車しても大丈夫そうな感じだ。車を乗り入れた。

車から出て、辺りを見回した。高速船の係船岸壁が目の前にある。なるほど、あれで<神島>に行くことができるわけだ。ちなみに<神島>には、灯台50選に選ばれている、神島灯台がある。それに、この灯台は伊良湖岬灯台のペア灯台だ。あと、<神島>は三島由紀夫の小説「潮騒」の舞台となった島らしい。今回訪問を見送ったのは、次回の旅で<鳥羽>へフェリーで渡るわけで、その鳥羽港から、市営の船が出ているようなのだ。<菅島>という島にもシブい灯台があるようなので、一日かけて、この二島を巡るつもりでいる。

立ち入り禁止の岸壁際に立った。隣では爺さんが釣りをしている。海の向こうに、さっきの白い灯台と、別の防波堤の先端部にある赤い灯台が見えた。目に映っているのは、左側に赤い灯台、右側に白い灯台だ。だが、頭の中で、瞬時に、陸に向かって、右は赤い灯台、左は白い灯台と判断した。なるほど、これが防波堤灯台の決まり事だ。赤いのも見に行ってみるか。なぜか、そっちの方の空だけが青空だった。

赤い防波堤灯台を目指して走りだした。途中にはフェリー乗り場がある。その手前の、大きな建物の前が駐車場だ。建物は<道の駅 伊良湖クリスタルポルト>。車から出て、入口へ行った。自動ドアが開かない。扉に額をくっつけて中を覗くと、電気がついていない。閉店中なのか、休業中なのか、何の張り紙もなく、告知もされていない。実は、昨日も、この建物には、ちょっと寄っている。その時も閉まっていた。今日と全く同じ状態だった。休業中なのだ。と、腰の曲がった婆さんが近寄ってきて、自分と同じように、自動ドアに額をくっつけて、店内を見回している。やってないみたいよ、と声をかけると、じろっと見ただけで返事もしない。ぶつぶつ言いながら、立ち去っていった。

そうそう、どうでもいいことだが、昨日この建物に寄ったとき、建物内にあるトイレに寄って、大きなウンコをしたのだ。建物には入れないが、なぜか、トイレだけは、24時間使用できるようになっている。つまり、トイレの扉は、駐車場に面していて、鍵がかかっていないのだ。それに、予想外だったのは、温水便座だったことだ。ただ、座るときには、やや抵抗感があった。が、便意には勝てなかったわけだ。

とはいえ、昨日の、どのタイミングで、トイレに寄ってウンコをしたのか、正直な話、よく覚えていない。いや、昨日は<小>で、この日が<大>だったのかもしれない。気持ちを集中して、思い出そうとすれば思い出せるだろう。しかし、今はそんなことに、エネルギーを使っている場合ではない。この旅日誌を早く書き終えることの方が重要だ。そもそもの話、ウンコをした日を確定することに、さほど意味があるとも思えない。

移動。フェリー船の、乗船口の前を通って、岸壁の行き止まりまで行った。そこは、防波堤で区切られた、駐車場、というか駐車スペースで、その防波堤の、はるか彼方に、赤い防波堤灯台が見えた。一瞬たじろいだ。あそこまで歩いて、撮りに行きべき灯台なのか?とはいえ、時間的な余裕があった。つまり、スマホの天気予報を見る限り、二時までは曇りマークがついている。もっともこれもおかしな話で、朝見た時には、曇りマークは十一時までだった。まだ、昼前だった、とにかく、伊良湖岬灯台は、二時までは写真にならないわけで、時間調整が必要だったのだ。

車の中でぼうっとしていてもしようがないだろう。防波堤の上、というか下を歩くだけで、危険もない。体力を消耗することもない。すいません、すいませんと言いながら、釣り人の前を通って、赤い灯台に近づいた。ところが、やっぱり、根元に釣り人がいた。今回も、根元の手前で、これ見よがしに写真を撮った。

なぜか、赤い灯台の背後だけが青空になっていた。写真的には、さっきの白い灯台よりはましだろう。だが、フォルムがパッとしない。撮影位置が局限されているわけで、防波堤の先端に立っている灯台を、真正面から撮るだけだ。それに、防波堤の上は、さほど広くないから、左右に少し動いて、横にふったとしても限度がある。何よりも、釣り人が灯台の根本に居座っているのだから、絵面汚い。こっちも、写真にならないだろう。

引き返した。短時間に、二度も同じ釣り人の前を通ることに、少し気が引けた。防波堤の下の通路は、人一人が通るのがやっとの幅で、釣り人が座りこんでいれば、まったく通れない。だが、釣り人たちは慣れたもので、こっちがすいませんと言う前に、体をよけてくれた。プロレスラーの<蝶野>みたいなおじさんも、指にタバコをはさんで手で、自分の足をまたいで行け、と合図を送ってきた。気配を感じて、かなり前から、立ち上がっている人もいた。恐縮したふりをして、五、六組の釣り人の前を通った。

駐車場が、かなり近くに見えてきた辺りで、爺さんに声をかけられた。この爺さんには、さっきも声をかけられていた。なにを撮りに行くんだ。この先の灯台です。黄緑色のウィンドブレーカーを着て、白髪だった。そばに、同じような年恰好の奥さんがいた。今回は、うまく撮れたかい、ときた。その後、かなり長い立ち話をした。あまりに長くて、途中で、防波堤に座りこんで、話を聞くことになってしまった。

結局は、この爺さんも、釣れない釣りをしていて、暇だったのだろう。そこに、自分が、ニコンのでかいカメラを二台ぶら下げて、のこのこやってきたわけだ。恰好の、暇つぶし相手が、ネギまで背負ってきたのだから、話しかけないわけには行かないだろう。つまり、爺さんも写真をやっているようなのだ。だから、話の中身は、だいたいは写真に関することだった。

鳥を撮っているとか。ミラーレスカメラがどうのこうの、型落ちのカメラの方が得だとか、あるいは<伊良湖ビューホテル>には、年に一回、珍しい鳥を撮るためにカメラマンが終結するとか、こちらが聞いてもいないのに、ホテルの展望台からの景色が最高なので、撮りに行けばいいとか、延々としゃべっている。途中、奥さんも参戦してきて、スマホで撮った写真などを見せてくる。何度も、腰を上げかけたが、その都度、獲物を逃すまい、と言わんばかりの話しぶりで、引き留められた。ま、こっちにも時間的余裕があったからね。

十五分くらいは、爺さんと、ある事ないこと、話していたような気がする。流石に飽きてきて、爺さんの話している最中に、腰を上げ、では、と言って、その場を後にした。車に戻って、一息入れた。来た時に止まっていたキャンピングカーはなかった。さっきの黄緑色の爺さんの車かもしれない、と話の途中でふと思い、もしそうならば、キャンピングカーには多少興味があったので、その話がきけるかもしれないと思い、長話に付き合っていた、という気がしないでもない。ま、いい。また、外に出た。二時までにはまだ時間があった。岸壁の前に立ち、フェリーが入港してくる様を、面白半分に観察しだした。

まずは、係船岸壁で、作業員がフェリーの接岸準備をしている。門型クレーン?を使って、大きな鉄板を下におろしているように見える。おそらく、あの上にフェリーの車両ゲートがのっかるんだ。準備が整うと、フェリーが、バックでゆっくり入ってくる。作業員が、動き回っている。と、船尾が開いて、ゲートがゆっくり下りてくる。思った通りだ。作業員が、そのゲートを、岸壁にぴったり固定する。少し間があって、始めは徒歩の人間が十名ほど、次に、乗用車が、これまた十台ほど、最後に、バイクが五、六台、フェリーの腹から飛び出してきた。人間も車もバイクも、どこか、晴れがましく、元気に明るい世界へ出て行った。

この一部始終を見終わって、意味もなく、感動していたような気がする。風もなく、十二月にしては、暖かい陽気だった。防波堤の彼方に、黄緑色がみえた。さっきの爺さんと奥さんが、連れ立って、こっちに向かってくる。釣れない釣りを終わりにしたようだ。

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2023

03/04

Sat.

09:31:24

<灯台紀行 旅日誌>2020年度版 

Category【灯台紀行 愛知編

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<灯台紀行・旅日誌>2020年度 愛知編#13
伊良湖岬灯台撮影4~ホテル

灯台に到着した。まだうす暗かった。灯台の目がときどき光っていた。とはいえ、朝日が見えない以上、気合が入らない。おざなりな感じで、シャッターを押した。それでも一応、撮影ポイントはすべて回った。東側の石畳の道、石塀の上、波消し石の上にも立った。ただ、西側の波消し石の上では、ちょっとした不注意で、尻もちをついた。飛び歩きした際、下の波消し石が濡れていたのだ。そこに勢いよく足をおろしたものだから、まるで絵に描いたように、すってんころりん。幸い、怪我もせず、カメラも無事だった。おそらく、カメラを持っている状態で転ぶのは、これが初めてだろう。常々、転んだら一巻の終わり、と自分を戒めていたのだ。とくに、高価なカメラを買ってからは、最大限の注意を払っていた。にもかかわらず、この体たらくだ。

身体もカメラも無事だったからいいではないか、とは思えなかった。そういう問題じゃない。カメラを破損したら、撮影旅行は即中止。それに、石の角に頭でもぶつけて、意識でも失ったら、この時間帯、誰にも発見されず、助かる命も助からない。あるいは、足の骨でも折ったら、車の運転もできない。400キロの道のりを、どうやって、骨壺の中で待っている、ニャンコがいる自宅に戻ればいいんだ。

とはいえ、一方では、この朝の椿事を、冷静に分析した。昨日来の、波消し石の飛び歩き、階段の上り下りで疲労がたまっている。いわゆる、足にキテいる。それに、早朝、頭と体が、まだ目覚めていなかった。不注意は、たんなる不注意ではなく、ある意味、必然だった。くわばら、くらばら。

西側の石塀の上に戻った。夜が完全に明けて、白けた感じだった。加えて、曇り空だから、風景に色合いがなく、写真的には、撮ってもしょうがない感じだった。だが、何枚かは撮った。最後に、山側の階段に登って、灯台を撮った。朝っぱらの曇り空が背景だ。ごくろうさん!まったくもって、写真にならない。すぐに階段を下りた。無駄足だった。だが、無駄骨だとは思わなかった。曇り空でも、来ないわけには行かなかったろう。後悔するよりはましだ。

石畳の道を、右手に恋路ヶ浜を見ながら、駐車場へと戻った。夜があけて、釣り人の数も少し減ったように見えた。頭の中では、この後の予定を考えていた。まずは、食料の調達だ。昨晩、ホテルの女性が教えてくれた、田原街道のファミマに行こう。その後いったんホテルに戻り、朝食。問題はその後だな。伊良湖岬港の防波堤灯台を撮りに行く。そのついでに、フェリー乗り場を下見しよう。伊良湖岬からフェリーで対岸の鳥羽へ渡り、周辺の灯台を撮る。次回の灯台旅は、もう決まっていたのだ。

ホテルの前を通過した際、車の時計を見たような気がする。八時ちょっとすぎていた。ま、五、六分走ればつくだろう。<田原街道>を北上して、ファミマへ向かった。ところが、走れども、走れども、ファミマの看板が見えて来ない。多少、不安になったころ、やっとありました!20分以上かかった。ちょっと走って、という女性の言葉を思い出した。この辺りでは、車で20分走ることが、ちょっと走って、ということなのか?それとも、彼女の言葉の選択が間違っていたのか?ま、どっちでもいいか。

ファミマで、しこたま食料を仕入れた。<地域クーポン券>を¥2000分、ほぼきっちり消化した。戻り道は、さほど長く感じなかった。ホテルまで、どのくらいかかるか、わかっていたからね。ま、それにしても、ちょっとコンビニに行ってくるだけで、小一時間かかった。渥美半島先端部の人口密度が、いかに低いかを、はからずも、実感したわけだ。

ホテルに着いた。自動ドアは、手でこじ開けようとする前に、目の前ですっと開いた。中に入った。その際、踊り場?に、大きなユリの鉢植えがたくさんあることに気づいた。いや、昨晩来た時から、気づいてはいたが、それが何なのか、よく見なかっただけだ。じっと見た。白に赤の斑が入った大輪のユリの花だ。どの鉢の花も、ほぼ満開で、踊り場の右半分くらいがお花で埋まっている。それに、ブーゲンビリヤの大きな鉢植えもある。こちらも深紅のお花がこぼれんばかりだ。ほかにも、プランターの中で黄色いお花が咲いている。明らかに、このホテルには、お花の好きな人がいて、丹精しているのだ。

螺旋階段を下りた。明かりはついているが、受付には誰もいない。にもかかわらず、カウンターの上に、プラ棒の鍵が、四、五本置いてある。どういうことなのか、早朝に出ていった客の物としか考えられないだろう。サビた呼び鈴を押すべきかどうか、ちょっと迷った。つまり、鍵は持っているわけだし、受付を呼び出す必要はない。早朝に出ていった客もそう思ったからこそ、黙って鍵を置いていったのだろう。

もっとも、あの時、もう一つの理由を思いついていた。それは、ホテルの受付が、カウンターに鍵を置くことで、これから出勤してくる掃除係りに、きょう掃除する部屋を、いわば無言で指示しているのだ。そういえば、四、五本あった鍵は、乱雑にではなく、比較的きれいにまとめて置いてあった。ま、どちらでもいいことだが、とにかく、両者に共通することは、要するに、人手がない、ということだろう。つまり、必要もないのに、呼び鈴を鳴らすのは、迷惑なのだ。

エレベーターに乗って、部屋に戻った。花柄のカーテンを開けた時、あっと思った。踊り場のお花を丹精している人と、この部屋の内装を選んだ人は、同一人物だろう。それに、人手のないことを考えれば、昨晩の受付の女性が、このホテルの女主人に間違いない。なるほどね、と思いながら、朝飯を食べた。おにぎりと菓子パン、牛乳、それに小粒みかんを何個か食べた。それで十分だった。食べ終わった途端、眠気がしてきた。ベッド際の灰色の花柄カーテンを、今度は閉めて、横になった。小一時間、いや、午後になっても曇りマークがついている、ゆっくり、昼寝ならぬ、朝寝だな。

静かだったせいもあって、すぐに寝込んでしまったようだ。目が覚めたのは、九時半過ぎだった。持ち込んだ目覚まし時計を見たような気もする。小一時間ねむったわけだ。眠気はなく、元気になっていた。すぐに身支度を整え、部屋を出た。一階に下りて、受付の錆びた呼び鈴を押した。一拍半くらいおいて、声が聞こえ、昨晩の女性が現れた。朝から晩までいるのだから、間違いない、彼女が、このホテルの女主人だ。出かけてきます、と言って鍵をあずけた。その時、何か聞かれたような気もするが、忘れてしまった。

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