此岸からの風景
<日本灯台紀行 旅日誌>オヤジの灯台巡り一人旅 長~い呟きです
2023
04/26
Wed.
14:11:06
<日本灯台紀行 旅日誌>2021年度版
Category【灯台紀行 紀伊半島編】

<日本灯台紀行 旅日誌>紀伊半島編#1
#1 一日目2021-3-20
プロローグ~出発
2021年3月20日土曜日。午後9時。今いる場所は、新名神鈴鹿パーキングエリア。これから車中泊。外は土砂降り。なんで、こういうことになったのだろう。少し説明しておこう。
紀伊半島灯台巡りの実行を本気で考え始めたのは、3月に入ってからだった。当初は、新幹線・電車・レンタカーの旅を考えていた。何しろ、紀伊の国は遠い。500~600キロある。だが、依然として、年初からのコロナ感染による<緊急事態宣言>が解除されない。それに、寒いしな~。
とはいえ、月一回の灯台旅を心づもりしているのに、前回の旅からは、すでにまる3か月以上たっている。多少、うずうずしている。名古屋までの新幹線の時刻表や運賃、それに近鉄電車の鳥羽へのルート、駅近くのレンタカーやホテルなどをネットで調べた。調べているうちに、実際の行程が、まざまざと目に浮かんできた。と、なんだか、電車旅がめんどくさくなってきた。
やはり、自分の車で行くのがいい。荷物もたくさん持っていけるし、何しろ自由度が全然違う。500キロだろが600キロだろうが、途中で一泊すればいいわけで、ケチな話、その宿代を考えても、レンタカーを借りるよりは安くあがる。それに、車で行くなら<コロナ感染>のリスクも下がる。
車で行くのが一番いいのだけれども、何しろ距離が、と運転体力に関して弱気になっていたのだ。それに、運転時間が長くなれば、その分事故の可能性も増えるわけで、万が一のことも考えられないこともない。いや、これは、ちょっと思っただけだ。
ごちゃごちゃ考えていても、埒が明かない。快に流れる有機体の傾向に身をゆだねよう。紀伊半島の旅、今回も車で行こう、ということに相成った。
決断した後は早かった。すぐに、実際の行程を詳細に検討しだした。これまでの高速走行の経験から、まあ、1日400キロくらいが限度だろう。一時間に60キロ移動するつもりで走るなら、高速運転もさほどきつくはない。つまり、1日8時間運転して、480キロ進めるわけだ。今回の場合<津>がそのあたりだ。いや正確に言えば、<津>までは400キロだ。
<津>で一泊して、次の日に200キロ移動する。このうち半分は一般道で、検索によれば、約4時間かかる。ということは4時間半とみればいい。ちょうど昼頃、通り道の<梶取岬灯台>に寄る。この灯台は目的地の30キロ手前、那智勝浦辺りにある。ネット画像で見る限り、ロケーションがよい。ここで、2時間ほど寄り道をしたとしても、紀伊半島の先端、潮岬灯台には、日没前の3時か4時頃までには到達できるだろう。何しろ、お目当ての<潮岬灯台>は夕日がきれい、らしいのだ。
ところで、今回の旅の計画は、天候の問題などもあり、二転三転、いや四転五転している。その経過は、もういいだろう。思い出して何の得になる!決定事項となった最終計画だけ書き記そう。
21日・日曜日は雨、この日に400キロ走って<津>まで移動、ホテルに泊まる。次の日から二日間は晴れそうなので、紀伊半島の東側?を200キロ南下、和歌山県へ移動。<串本>駅付近のビジネスホテルに三泊して、<潮岬灯台><樫野埼灯台>の撮影。25日の木曜日、午前中は雨予想。この間に、200キロ北上して、三重県伊勢志摩方面へ移動。<鵜方>駅付近のビジネスホテルに三泊。<大王埼灯台><安乗灯台><麦埼灯台>の撮影。最終日は500キロ走って、自宅に戻る。
出発の前々日の金曜日には、すべての手配を済ませ、念入りな現地マップシュミレーションも終了。むろん、車への荷物の積み込みも完了していた。
出発前日の、土曜日になった。雨はまだ降っていないが、いまにも降り出しそうな空模様。昨日来から、なんとなく胸騒ぎがしていて、出発日の天候を、しょっちゅうスマホで確認していた。実を言うと、御殿場付近からの箱根の山越えが気になっていたのだ。三時間降水量が16mmくらいあり、かなり多い。雨の日に出発する、というのも気が重いが、高速道路で強い雨風に出っくわすのは、もっと嫌だ。以前、若い頃に暴風雨の中、東名を名古屋から東京まで走った経験がある。あれはかなりきつかった!
時刻は、午後の一時半だった。このまま、ぐずぐずしていてもしようがない。決断した。出発を一日前倒しして、雨の降らないうちに箱根の山を越えてしまおう。宿は、いまから予約できるはずもないので、今から、走れるだけ走って、高速のパーキングで車中泊だ。天候的には、暑くもなく、それほど寒いということもないだろう。
幸いなことに、と言うべきか、旅の用意はすべて完了していた。あとは着替えだけだ。何と言うか、せっかちというか、小心というか、当初の計画をあっさり反故にして、前日の午後二時に出発してしまった。このへんは、かなり気ままで、多少小気味よかった。
五、六時間、曇り空の中、高速を走った。東名から伊勢湾岸道に入るあたりで、雨がパラパラ降ってきた。同時に暗くなってきたが、夜間運転が目に眩しいこともなかった。ふと、二十年ほど前の、眼発作を思い出した。あの時は、車のヘッドライトが異様に眩しくて、夜間運転など、まったく不可能だった。失明の危機を脱して、今こうして、自在に車を運転できる自分が、不可思議であり、奇跡のようだと、内心ニヤリとした。
・・・というわけで、これから、土砂降りの鈴鹿パーキングで車中泊をしようというわけだ。おもえば、この車で車中泊をしたことは、一度もない。いわば初体験だが、食事、洗面、就寝、排尿などのシュミレーションは、ちゃんとしている。問題はない。と思ったが、歯磨きの際に、ちょっとした齟齬を感じた。コップを持参するのを忘れたのだ。ま、今日のところは、歯磨き粉は使わずに、歯ブラシを水にぬらし、口の中でごしごしして、その後は、飲み込んでしまった。汚いと思えば汚いが、ま、臨機応変、そんなこともできるんだ。
その後は、まだ眠くなかったので、ちょっと長いメモ書きをした。30分ほどして、それにも飽きて、21時15分、耳栓をして消燈。しかし、23時半ころ、車の野太いエンジン音に驚かされて、目が覚めた。もっとも、おしっこタイムでもあり、おしっこ缶にイチモツの先っちょを差し入れて、粗相の無いように排尿した。この行為も、なんだか滑稽で面白いとさえ思えてきた。
350mmのオシッコ缶は、この時のために、4、5本、持参している。問題ないと思っていたが、あにはからんや、1時間おきくらいの排尿で、朝になるまでには、すべての缶がいっぱいになってしまった。夜間頻尿なのだろうが、ガキの頃から、おしっこは近いほうだったから、この時は、ほとんど意に介さなかった。それよりも、一晩で出した、おしっこの量に、やや驚いた。こんなに水分を取った覚えはないよな、と。
あと、例の、野太いエンジン音が、一晩中、やはり、1時間おきくらいに聞こえてきた。しかも、なぜか、駐車場内で、かなりの時間アイドリングをしている。その振動音が不快で、寝付けない。そのうちには、爆音を轟かせて、遠ざかっていくが、少しすると、またやって来る。同じようなことが、4、5回あったような気がするが、あれは、幻聴だったのか?いや、そうではないだろう。何しろ、ここは<鈴鹿>だ。その種のスポーツカーが集まってくる場所だったのかもしれない。車中泊地の選択をまちがったな。翌朝、寝不足の頭でそう思った。
[edit]
2023
04/15
Sat.
09:31:53
<灯台紀行 旅日誌>2020年度版
Category【灯台紀行 愛知編】

<灯台紀行・旅日誌>2020年度 愛知編#17
伊良湖岬灯台撮影6~エピローグ
自動ドアの前に立った。仄かな、上品な香りがした。ユリのお花たちをちらっと見たが、暗くて、はっきり見えなかった。外に出た。まだ真っ暗だ。目の前の交差点の青信号が、やけに鮮やかだった。恋路ヶ浜の駐車場までは、ほんの一分だった。車が数台止まっている。装備を整え、カメラ一台、肩掛けして、三脚を手に持った。左側の砂浜と海を見ながら、遊歩道を歩きはじめた。釣り人は、居るにはいるが、ほんの数人だった。
予定通り、日の出前に、灯台に着いた。迷わず、西側撮影ポイントに向かった。石塀をよじ登り、乗り越え、波消し石たちの間に下り立った。たしか、磁石を見たような気もする。くるくる回る針の赤い方を、文字盤の<北>に合わせるのだ。そのときの文字盤の<東>が、東方向だ。間違いない、灯台の左下あたりから、陽が昇ってくるはずだ。ただし、左側の山がせり出していて、灯台との間に見える水平線の範囲が狭い。はたして、あの狭い所に、本当に陽が昇ってくるのか、確信はなかった。
数個の、大きな波消し石にまたがった形で、三脚を立てた。その際、垂直を確保するために、三本ある足のどれかを、この時は二本だったが、短くして、安定を図った。思い出していただきたい、波消し石たちは、全体的に見れば斜めになっている。したがって、個々の波消し石の関係も、これに準じるわけだ。斜めの場所に、三脚を置けば、当然、三脚も斜めになるか、あるには、傾斜がきつい場合には倒れしまう。真っすぐに立てるには、足の調整が必要だ。
三脚を真っすぐに立てる、ということは、写真撮影においては、基本中の基本だ。ただし、この基本を守るのは、なかなか難しい。つまり、何をもって、垂直の基準にするのか?ふつうは、地面だろう。だが、地面が水平なら、わざわざ、三脚の垂直を確保するまでもない。三本の足を均等に伸ばして、そのまま置けばいいのだ。
しつこいようだが、斜めの場所に三脚を立てる場合は、三本ある足の長さを調整するしかない。だが、その際、垂直の基準をどこに置くのか?これは、足ではなく、三脚の真ん中の棒(センターポール)だ。この棒が、真っすぐ下に向かっているならば、三脚の垂直は確保されている。だが、棒が下に真っすぐ向かっているかどうか、どう判断すればいいのだ。棒を横から見て、天地に対して真っすぐになっていれば、ま、一安心だ。
だが、その辺の判断が微妙だ。一例をあげれば、この棒を、反対側、ないしは、左か右から見ると、やや曲がっていることが、非常に多い。そうなると、また、三本の足の調整をしなければならない。経験的には、一発で、三脚の垂直が確保されたことはない。二回、三回と、この作業を繰り返すことが多い。厳密になればなるほど、この作業の回数はふえるわけで、いつまでたっても、写真撮影が始まらない。したがって、ある程度のところで妥協して、撮影を開始する。この時もそうだった。
日の出は、六時四十五分頃だ。昨晩、スマホで調べた。とはいえ、すでに、五十分を過ぎている。山側の水平線が、少しオレンジに染まっているが、まだ太陽は見えない。あれ~と思っていると、そのオレンジが、見る見るうちに濃くなって、いわばみかん色だ。おお~と思いながら、リモートボタンを押していた。と、おいおい勘弁してくれよ。人影だ。それも、いままさに、太陽が出てくる水平線の真ん前と、灯台の横だ。
伊良湖岬灯台の、というか伊良湖岬の日の出を見に来たカップルだな。というのも、灯台のすぐ下の波消し石の上で、男が、石塀や階段の上でポーズを取る女を撮っているからだ。あの位置からでは、日の出は入っても、灯台は画面におさまらない。灯台には興味がないわけで、ひたすら、日の出をバックに、彼女の写真を撮っている。二人の姿は、黒いシルエットだったが、その行動は、手に取るようによく見えた。
おりしも、みかん色が極まって、日が昇ってきた。水平線ぎりぎりの、小さな火の玉。まさに、この瞬間を撮りに来たのに、男女の黒いシルエットが、邪魔をしている。早くどかないかな、と思いながら、写真を撮り続けていた。幸いなことに、火の玉が少し大きくなって、水平線から、二、三センチ上に上がった頃に、二つの黒いシルエットは消えた。だが、火の玉はそろそろ限界に近づいていた。<丸>は、しだいに<空白>になり、その周辺を黄色の輪が取り巻き始めた。
あとで、この時の写真をよく見ると、正確な意味での日の出は見られなかったようだ。つまり、太陽は、水平線近くにたなびく雲の上から出てきたように見える。ま、それでも、この時は、帰宅日は撮影しないですぐ帰る、という自分なりの旅の流儀を反故にし、なおかつ、天気予報にも、男女の黒いシルエットにもめげずに、伊良湖岬灯台の日の出を撮った、と思っていた。
戻そう。不思議なもので、水平線の、ほんの数センチ上に来ただけで、太陽は、<火の玉>から、一気に黄色い光の環に変身する。もう<丸>は見えず、中心が<空白>の黄色い同心円が光り輝いている。光が強すぎるのだ。こうなった以上は、日の出の撮影を終了せざるを得まい。移動して、東側の撮影ポイントで、朝日に染まる灯台を撮ろう。
愚痴を言っても始まらないし、言いたくもないのだが、もういい加減、この動作は勘弁してもらいたい。足を石塀にあげるたびに、足のどこかがツリそうになる。だが、そうもいくまい。また石塀によじ登り、乗り越え、危なっかしい足取りで、波消し石たちの中に立った。
思った通り、灯台の胴体が、ほんのり赤く染まっている。海の色は深い群青色で、水平線付近が白っぽい。だが、空は上に行くにしたがって、しだいに、暗い水色へと諧調していく。目にも、心にも優しい色合いだ。そして、全体的には、夜明けの、というか早朝の、静かで、厳かな雰囲気が漂っていた。日の出の時ほどは、劇的でないにしても、撮らずにはいられない光景だった。
東側でひと通り撮り終え、今度は、階段へ向かった。登るとき、多少足が重かった。だが、多少だ。撮ることに夢中、アドレナリンが出ていたのだろう、肉体的な疲労に関しては、鈍感になっていた。一、二回、登ったり下りたりしながら、これ以上、もううまくは撮れない、と思えるまで撮った。千載一遇の機会、いや、ひょっとしたら、もう二度と来られないかもしれない。万全を期した。
これで、三つの撮影ポイントをすべて回ったわけだ。階段に腰かけ、一休みした。目の前には、しだいに赤みが消えていく、伊良湖岬灯台があった。一応、仕事?は終わったわけで、少しぼうっとしていた。灯台のすぐ後ろを、小型漁船が、勢いよく横切っていく。元気なもんだ、と思っていると、少し間隔を置いて、次から次へと現れる。なるほど、ツルんで仕事をしているんだな。その小さな船団が、どこへ向かい、なにを捕っているのか、ふと思ったが、皆目見当がつかなかった。頭が働かなかったのだ。ただ、波しぶきをあげてを疾走する、おもちゃのような漁船が、見ていて楽しかった。
そうこうしているうちに、小さな漁船たちは、目の前から消えて、海は静寂を取り戻した。灯台は赤みがすっかり取れ、白っぽくなっていた。立ち上がった。引き上げた。だが、階段を下りたら、未練が出た。最後にもう一回だけ、三つのポイントを回って帰ろうと思った。
まず、西側ポイント。また石塀によじ登り、乗り越え、斜めになった波消し石たちの中に立った。太陽は、すでに、灯台の首のところまで登っていた。この場合、画面に太陽を入れたら、写真にならない。ので、灯台の頭で太陽を遮って、写真を撮った。この方法?は、ここ何回か試している。自分では面白いと思っている。画面全体が黄色くなり、もろ、逆光なのに、灯台もかすかに黄色に染まる。いわば、浅黄色だ。この世の光景とも思えないが、良しとした。
次に階段に、また登った。しかし、全体的な見た目は、先ほどと、ほとんど違わなかった。ただ、灯台がさらに白っぽくなっていて、白でも朱でもない、何とも形容しがたい色になっていた。明らかに、朝日に染まっている灯台の方がいい。もう、撮ってもしょうがない。だが、なおしつこく、階段を下りながら撮っていた。あとは、最後にもう一回、石塀によじ登り、乗り越え、波消し石の上に立って、東側ポイントから、灯台を撮った。撮りながら、ここも、もう撮ってもしょうがないなと思った。
実質的には、伊良湖岬灯台の撮影は、終わっていた。とはいえ、気分的には、立ち去り難く、遊歩道を、後ろ向きに歩きながら記念写真を撮った。もちろん時々ふり返って、後方の安全は確認した。いよいよ、山影で、灯台が見えなくなる時がきた。立ち止まった。やはり、立ち去り難かった。あの時、何を思っていたのだろうか、よく思い出せない。また来る、あるいは、絶対また来る、とは思わなかったような気がする。ただただ、立ち去り難かっただけだ。
前に歩き出した。五、六歩歩いて、ふり返った。灯台は、山影に隠れてしまい、もう見えなかった。さてと、これから、六、七時間、車の運転だ。うんざりはしなかった。今回で七回目の灯台旅、高速運転に慣れてきた。六時間くらいは、へっちゃらだ。気分が変わって、帰宅モードになっていた。
そうだ、<あさりせんべい>を買っていこう。うまいようなら、小粒みかんと合わせて、友人へのお土産にできる。<柿>へのお礼だ。というか、<自然の甘味>には<自然の甘味>で応えたかった。だが、<田原街道>沿いに、土産物屋の女将が教えてくれた、<あさりせんべい>の店はなかった。聞き間違えたのか、それとも、見過ごしたのか、どちらにしても、もうどうしようもなかった。とはいえ、六、七個の小粒みかんだけでは、理由はともあれ、お土産とは言えないだろう。なので、高速に乗った後も、サービスエリアごとに止まって、<あさりせんべい>を探した。
しかし、どこにもそのようなものは置いてなかった。渥美半島の名物、銘菓だと思っていたが、これも勘違いだったのかもしれない。とにかく、もうこれ以上は無理だと思い、浜松のサービスエリアで、<エビせんべい>を買った。うまいかどうかは、試食できなかったのでわからない。とはいえ、小粒みかんを手渡す体裁が整ったわけで、気持ち的には多少すっきりした。
伊良湖岬、恋路ヶ浜駐車場を<8:40 出発>。事故渋滞もなく、午後三時過ぎには、友人のオフィスに着いた。うまい、と小粒みかんを食べながら、友人が言った。<自然の甘味>を知る人間だ。お愛想ではあるまい。それに、少し歓談したら、運転疲れがとれた。その後<16:00 帰宅 片付け 夕食>、とメモにあった。
<愛知旅>2020-12-6(日)7(月)8(火)9(水)10(木) 収支。
宿泊四泊 ¥25900(Goto割)
高速 ¥16900
ガソリン 総距離940K÷20K=47L×¥130=¥6100
飲食等 ¥5100
合計¥54000
<灯台紀行・旅日誌>2020愛知編#1-#17 2021-1-10終了。
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2023
04/06
Thu.
09:15:44
<灯台紀行・旅日誌>2020年度版
Category【灯台紀行 愛知編】

<灯台紀行・旅日誌>2020年度 愛知編#16 ホテル
駐車場に戻ってきた。リアドアを開け放し、ゆるゆると装備を解いて、車の中を整理していた。自分の車の後ろあたり、バイクと車のヘッドライトが眩しい。大柄のバイク野郎は、何やらスマホで調べている。隣は、黒い<レクサス>だった。今晩泊まる宿でも調べているのか?アイドリングの音が気に障る。星を眺め、波音に耳にすませていたことが、ウソのように思えた。そのうち、轟音を響かせ、バイクは出て行った。あとに四輪の<レクサス>がぴったりついている。やっぱり連れだったんだ。暗闇に、ちょっと、ギャング映画のワンシーンのようだった。
ホテルの駐車場に着いた。車が数台止まっている。建物を見上げると、数か所、窓に明かりが見える。なんとなく、車の台数と、窓の明かりの勘定が合わないような気がした。おそらく、裏手のシングル部屋に客が泊まっているのだろう。少し説明しよう。今日の昼間、ホテルの裏側の道を通った際、このホテルが崖際に立っているのを発見した。つまり、自分の今いる駐車場と裏の道との間には段差があり、いわゆる<崖屋造り>になっていたのだ。
崖に建っているのだから、表から見た一階は、裏から見れば二階になる。したがって、このホテルの受付は、見た感じでは、駐車場のある一階から、地下一階に下りたところにあったのだが、じつは、裏の道から入れば、そこが一階であり、駐車場のある上の階は、まさに二階だったわけだ。そういえば、エレベーターにも、地下一階という表示はなく、一番下の数字は<1>だった。
ついでに、もう一つ付け加えるならば、自分の宿泊した広めの部屋は、すべて南向きで、窓も広い。一方、裏側の部屋はすべてシングル部屋で、窓も小さく、北向きだった。値段的にも、¥2000以上の開きがあった。常日頃の<セキネ>の習性を考えれば、なぜ安い方に泊まらなかったか?答えは、たんに空いていなかったからにすぎない。それに<Goto割り>も適用されるからね。ちなみに、このホテルのシングル部屋に泊まって<Goto割り>を適用すれば、素泊まり一泊で約¥3500。さらに<地域クーポン券>も¥1000ほどはゲットできるから、いわば<ゲストハウス>並みの値段で泊まれたはずだ。
うす暗いホテルの出入り口に立った。自動ドアが開いて、中に入った。と、仄かな、上品な匂いだ。下にずらっと並んでいる大きめな植木鉢、ユリのお花たちだった。意外だった。というのも、以前、実家で咲いていたユリの匂いは、まるで公衆便所並みだったからだ。ま、匂いというものは、きつすぎると、耐えられん!だが、この時は違った。暗がりの中で、静かに咲いている、ユリのお花たちは、かそけく、甘く切ない香りを放っていた。美人の匂いだった。
螺旋階段を下りた。そこだけが明るい受付カウンターの前で、トートバックを下におろした。<ぢん>と呼び鈴を鳴らした。今回は、一拍半おいて、声が聞こえた。反応が、段々早くなっている。女主人は、機嫌がいいのか、愛想がよかった。どうでした、と聞いてきた。そうだ、昨晩、いや、今日の朝だったかな?灯台や朝日や夕日などを撮りに来たことを、ちょっと話したのだ。
曇ってて、朝日は出なかった、と答えた。その後、カウンター越しに、五、六分話をした。女主人は、かなり雄弁で、星空を撮りに来たプロの写真家の話をしながら、その写真家から送られてきた星空の写真を、カウンターの後ろから取り出して、見せてくれた。写真には、灯台が写っていなかった。正直な話、星空の写真に、それほど興味はない。自分としては、ユリのお花たちの話を聞きたかった。すごく良い匂いで、素晴らしく咲いている、と話を向けた。
案の定、女主人が丹精しているようだ。花好きのお友達からもらったもので、そう言われるとうれしい、初めて言われた、と顔がほころんだ。ほかにも、ブーゲンビリヤもきれいに咲いているし、入口付近が、温室のような感じになっているんでしょうね、と応じた。さらに、カウンターに、深紅のバラが活けてあったので、お花が好きなんですね、と改めて、女主人の顔を見ながら言った。彼女は、聞かれもしないのに、私は赤が好きなんです、と答えた。情熱的なんですね、と立ち去り際に言葉を残した。女主人の、まんざらでもなさそうな表情が、ちらっと見えた。伊良湖岬の、女丈夫だった。
ホテルに着いたのは、夕方の六時頃で、食事をして、メモを書いた。さらに、その後、風呂に入って頭を洗ったらしい。そのようなメモ書きがノートに残っている。夕食は、その日の朝、ファミマで買った弁当だった。旅先で、わざわざ頭を洗ったのは、ちょうどその日が木曜日で、洗髪の日にあたっていたからだ。ほぼ、一日おきの洗髪は、多少長髪になった今日日、欠かせない日課になっていた。何しろ、二日、ないしは三日あけると、頭がくさい。もっとも、旅先だったから、念入りには洗わなかった。
そうだ、風呂では体を横たえ、昨日にもまして、ゆっくりくつろいだ。そして、風呂あがりには、二本目のノンアルビールを痛飲した。そのあと、荷物整理をして、明日の朝、すぐに出られるようにした。もっとも、朝食用の食材は座卓の上に置き、飲み物は冷蔵庫に入れたままだ。
と、その時だった、というのはウソだが、とにかく、灰色の厚手のカーテンを閉めた時に、プリントされている花柄をちらっと見た。何と、深紅のバラだった。この部屋は窓が大きい上に、都合四枚ものカーテンがかかっている。目の前に、手のひら大の、少しくすんだ深紅のバラが、滝のように流れている。<私は赤が好きなんです>。女主人の言葉が、頭の中で聞こえた。
さて、寝るか。明日は帰宅日だが、今朝撮れなかった伊良湖岬灯台の日の出を撮りに行く。もうひとがんばりするつもりだった。幸いなことに、明日は、すべての時間帯に、晴れマークがついている。日の出は、たしか六時四十五分くらいだったと思う。目覚まし時計を五時にセットした。夜の八時過ぎには寝ていたと思う。
・・・灰色の厚手のカーテンを開けた。深紅のバラは、もう目に入らなかった。外はまだ真っ暗だ。まず着替えた。その次に洗面を済ませ、朝食。ウンコは、多分出なかったと思う。持ち込んだすべての持ち物を、ゴミは別として、カメラバックとトートバックに詰めこんだ。そのあと、ベッドや座卓まわりを、ざっと整頓した。忘れ物はない。と思ったが、念のため冷蔵庫と金庫を開けてみた。カラだった。静々と部屋を出た。うす暗い廊下を少し歩いて、エレベーターで一階に下りた。というか<1>を押した。
いつ来ても、このホテルの一階はうす暗くて、受付カウンターだけが明るかった。プラ棒についている鍵を、カウンターの上に置いた。ほかに鍵は置いてなかった。サビた呼び鈴をちらっと見た。<ぢん>と鳴らして、女主人に挨拶していくか、ちょっと迷った。目の端に、大きな花瓶が映った。胴のまるっこいその花瓶の絵柄も、たしかお花だった。首を少し回して、差してあるバラのお花たちを見た。昨晩と同じで、カウンターからの白熱電球の光を受けて、深紅がくすんでいる。とはいえ、そのお花たちが、みなこちらを向いて、少し笑っている。カウンターの鍵を、手で、きちんとそろえた。女主人を起こすのはやめて、静かに螺旋階段を登った。
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