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此岸からの風景

<日本灯台紀行 旅日誌>オヤジの灯台巡り一人旅 長~い呟きです

2021

02/21

Sun.

13:43:54

<灯台紀行・旅日誌>2020 

Category【灯台紀行 南伊豆編

<灯台紀行・旅日誌>2020南伊豆編#6 海沿いのホテル

岬を下りて、国道の信号に出た。左折して、坂を下ると下田湾東端に出る。少し行くと、道が広くなる。片側二車線、立派な中央分離帯がある。海岸沿いが整備されていて、公園になっている。宿は、右側の道路沿いにたっている。したがって、どこかでUターンしなければならない。だが、交通量が少ないので、中央分離帯の切れたところで、ある意味強引に回転した。

ホテルの前、道路沿いに何台か駐車できる。幸い空いている。切り返して、建物に対して垂直に車を止めた。そばにおじさんがいて、駐車場の案内をしているようだ。ホテルの従業員というよりは、小料理屋の大将、といった感じだ。車の中の荷物を整理して、いつものようにカメラバックを背負い、手にトートバックを持った。ちょっと会釈して、ホテルの中に入った。

透明なビニールで仕切られた、受付カウンターにいたのは、これまたホテルの受付というよりは、さびれた民宿の爺さん、といった感じの老人だった。手の甲で検温を受け、その後は、館内使用について、息を切らしながらの一生懸命な説明を聞いた。はいはいと受け流して、手渡されたコロナ関連の書面に署名した。最後にコロナ対策の<地域クーポン券¥2000>を受け取った。これは予期していたことが、ラッキーだった。ただし、どこの店で使えるかと尋ねると、爺さんの答えはあやふやだった。これが張ってあるところ、と指さす方を見ると、青っぽいステッカーに<地域共通クーポン 取扱店>とあった。

そういえば、署名するときに、身分証の提示は求められなかった。もっとも、楽天トラベルで<Gotoクーポン>をゲットして予約したのだから、身元はそこから割れるわけだ。あるいは、爺さんが忘れていたのかもしれない。

例の、プラ棒についている鍵を受け取り、エレベーターで四階まで行った。廊下は広く、余裕のある作りだ。だが、ひと昔、いや、ふた昔以上の前の、まさに、昭和のホテルで、古色蒼然としている。何よりも気になったのは、廊下に敷きつめられた絨毯だ。趣味の悪い赤い柄で、なんだか汚らしい。

廊下の先に五、六段の階段があり、それを下りた。これは明らかに、建物を継ぎ足したことによるものだ。事実、自分の泊まった部屋は<新館>らしい。部屋に入ってまず気がついたのは、がらんとした感じの十畳間に白い布団が一組敷いてあったことだ。床は畳でも板張りでも、フローリングでもなくて、何と言うか、表面がつるつるの、少し柔らかい、厚手のビニールとでも言っておこうか。今日日、お目にかからない代物だ。素足でぺたぺた歩くのが、やや憚れる。トートバックの中から靴下を取り出して、穿いた。もっとも、そのうちには、この床材にも慣れて、素足で歩き回っていたのだが。

むろん、値段相応で、不満はない。自分的には、古いよりも、汚いことが気になるのだ。まあ~、古くて汚いのは最悪だが、新しくて汚いよりは、古くてきれいな方がいい、とさえ思っている。幸い、この部屋は、古いが、汚くはない。それに、いわゆる<オーシャンビュー>で、道路越しに、下田湾が一望できる。前回の<南房総旅>で泊まったホテルも、海は見えたが、視界の三分の一だった。それに比べ、ここは、視界のほぼ100%が海景だ。

重いサッシ窓を開けてみた。たしかに、道路沿いだから、車の騒音がする。だが、視点を無限大にすると、湾の向こうに、水平線が見える。静かな、柔らかい海風が心地よい。ごきげんになった。ささっと荷物の整理をして、浴衣に着替えた。さて、温泉に行くか、と思ったが、その前に、食料を仕入れてくるのが先でしょ。そうだろう、温泉の後は、すぐに冷たいビールと夕食だ。

いま袖を通したばかりの浴衣を、敷いてある布団の上に、脱ぎ捨てた。ハンガー掛けしたジーンズやパーカを、鴨居からはずして、ささっと着替えた。貴重品の入っているポーチを肩にかけ、鍵を持って、部屋の外に出た。シーンとしている。人の気配がない。まあ、コロナ禍の平日、客がいなんだろうと思った。

受付には、爺さんがいた。なにか下を向いて、あたふたしている。出てきますと言って鍵を渡した。小料理屋の大将も、駐車場の前でうろうろしていた。ちらっと見て、左の方へ行った。コンビニとファミレスが至近距離にあるのが、このホテルの<うり>で、オヤジのひとり旅には好都合だ。食料を調達する手間が省ける。まず、<すき家>へ行って牛丼の特盛を頼んだ。むろんテイクアウトだ。注文の仕方や支払いが、すべて機械なので、ちょっと戸惑ったが、店員が親切に教えてくれた。一応、<地域クーポン券>を見せて、使えるか聞いてみた。使えないとのこと、ま、そうだろうな。

店を出て、ホテルの方へ戻った。駐車場のあたりでは、依然として、小料理屋の大将がうろうろしている。ついでに、ホテル一階のジムを見た。そう、道路側に面していて、ランニングマシーンなどが見えるのだ。ほとんど人がいなかった。ホテルを通り越していくと、ファミレスがあり、その先にコンビニがあった。朝食用の牛乳とか菓子パンなどを買った。レジのおばさんに、性懲りもなく<地域クーポン券>のことを聞いた。まだ準備中なんです、手続きが複雑で、と申し訳なさそうに答えてくれた。

レジ袋を二つぶら下げて、部屋に戻った。温泉に行こう。浴衣に着替えた。備え付けのバスタオルとアメニティのペラペラな手ぬぐいを肩にかけた、つもりだった。というのも、脱衣場に着いた時には手ぬぐいしかもっていなかったのだ。あと、貴重品を金庫の中に入れて、鍵をかけた。そのちゃっちい鍵を、部屋の鍵がついているプラ棒に絡めた。用心深いというか、小心というのか、これも身に染み付いた習性の一つなのだろう。

エレベーターで二階へ行った。男湯、と染め抜かれた紺の暖簾をくぐって、脱衣場に入った。タタキに館内用のツッカケが、一つ二つある。先客がいるようだ。ツッカケを、足で横に寄せ、上に上がった。横長だが、けっこう広い。それに裏返された脱衣籠がロッカーの上に整然と並んでいる。設備、内装はむろん<昭和>だが、きれいに掃除されている。

貴重品を入れるロッカーを見つけて、プラ棒をなかに入れた。鍵を抜いた。念のため、いま一度開けてみて、壊れていないか確かめた。前回の旅で、鍵の調子がおかしくなって焦ったことがある。まったく、念には念を、というわけか。

前も隠さず堂々と、浴室に入った。意外と広いし、きれいだ。それに何よりも正面に海が見える。ま、ガラスが少し曇ってはいたが。自分より年配のおじさんが二人いた。一人は、洗い場、鏡の前に腰かけて頭を洗っていた。もう一人は、六畳ほどの湯船の端でくつろいでいる。自分も、たしか頭を洗ったような気がする。火木土は、ジムへ行ってそのあと風呂で頭を洗うようにしている。二日あけると、頭がくさい!この日は、洗髪日の火曜日だったわけだ。

日常を非日常=旅に持ち込んでいるのだが、そんなゴタクはたくさんだ。ちゃんちゃらおかしい。旅に思い入れなんてない。日常も非日常もない。待っている時間が、死ぬほど退屈だから、気分転換に来てるだけさ。

手拭いを頭の上に、ちょこんと乗せて、湯船に入った。まじ、癖のない<いい湯>だった。温度も、自分にはぴったりで、湯の中の段差?に腰かけて、くつろいだ。三メートルほど離れたところに、おじさんもいたが、ほとんど気にならなかった。立ち上がり、湯船の中を少し歩いて、窓際へ行った。手でガラスをふいてみた。海は、といっても下田湾だが、水滴で優しくぼやけていた。素っ裸で突っ立ったまま、そのあやふやな光景をしばらく眺めていた。

部屋に戻った。外はもう暗くなっていた。と、海の中に緑と赤の点滅が見える。なになになに、と思って、サッシ窓を開けた。なるほど、防波堤灯台があるんだ。いかにも、間抜けな感想だ。下田湾に防波堤灯台があることを、思いもしなかったのだから。と、その緑の点滅の向こう、漆黒の海の中から、ぴかっと何か光った。それも二回。一回目はかなり明るく、すぐ続く二回目はやや弱い光だった。

はじめは石廊埼灯台かと思った。とっさに、三脚を部屋に持ってこなかったことを悔いた。明日は持って来よう、とその気持ちをなだめた。その後は、冷たいビールを楽しんで、<牛丼特盛>を食した。テレビはつけていたが、見る気にもなれず、食休み方々、撮影画像のモニターなどをした。いや、その前に受け付けの爺さんからもらった<地域クーポン券>を詳細に眺めた。なるほど、どこで使えるかは表示されていないし、使用期間は旅の最終日まで、静岡県限定だ。

ふと思って、スマホで天気予報を見た。なんと!明日は朝から曇り、しかも午後には雨が降りそうだ。おいおいおい、勘弁してくれよ。来る前の予報では、午前中には晴れマークがついていたんだぜ。お手上げだ。撮影は無理だろう、明日は下田観光だな。ちょうど、目の前には防波堤灯台もあるし。爺さんにもらった、下田湾周辺の観光案内のパンフを見た。これといった所もないが、<黒船遊覧船>が、ちょっと気になった。

明日は下田観光か!と立ち上がって、窓際へ行ったのかもしれない。前後のいきさつは思い出せない。おそらく、いきなりだと思う。正面でほぼ十四秒ごとに、ぴかっと光っている光が<神子元島灯台>のものだと気がついた。これは、かなりの驚きで、自分の迂闊さを忘れて、少し興奮した。

神子元島(みこもとじま)灯台は、離れ小島の岩礁の上に立つ、白黒の灯台だ。今日の昼間、望遠カメラでようやくその姿が確認できた。自分には、ほとんど近づくこともできない、手の届かない灯台だと思った。それゆえだろうか、何か特別な気持ちがしないでもなかった。その灯台の光が、これほど明るく、身近に感じられることに感動したのだろう。

しばらくの間、うっとりと夜の海を眺めていた。灯台たちの光だけが点滅している。赤、緑、オレンジっぽいのもあるぞ。それに何と言っても主役は、真正面の白色のピカリだ。たしか、陸地からは、10キロほど離れているはずだ。細長い座卓に押し込まれていた、木製の座椅子を、窓際へ向けた。そこに座って、この奇跡的とでもいうべき光景を、じっくり楽しんだ。何とまあ、このホテルは、下田湾をはさんで、神子元島灯台と一直線に結ばれていたのだ。

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